個性あふれるゲーム制作会社を訪問し、会社の裏側からゲームの裏側に至るまで、さまざまな話をおうかがいする『トリクリ塾 ゲーム会社訪問編』。第4回は、ゲームや遊技機などの企画・開発を手がけるエンターテインメントカンパニー、ナツメアタリ株式会社様を訪問しました。
目次
―ナツメアタリさんのご紹介をお願いします。
鈴木さん:コンシューマーゲーム、遊技機、スマホゲーム、ゲーミングなど、エンターテインメント分野の企画・開発を手がけています。1987年の創業から、今年で30年目を迎える会社です。
コンシューマーゲームの開発を行う名古屋事業所は、デザイナーやプログラマなど総勢21名のクリエイターが在籍し、ハイエンドのアクションゲームを中心に企画から開発まで一貫して担当。ファミコン時代から大手ゲームメーカーさんと直接取引を行っており、現在はPS4の2タイトルを同時進行で開発しています。
キャラクターを扱ったタイトルがメインで、アジア圏対応のほか、ヨーロッパ・南米を含めた8~10カ国対応など、ローカライズやカルチャライズまでのすべてを名古屋で手がけています。
―お2人の仕事について教えてください
鈴木さん:私は事業部長としてのマネジメントのほか、実務では企画全般を担当しています。全体で2つのチームに分かれて開発を行っていますが、そのうち1チームのディレクションと、インターフェースのデザインを担当。ときにはシナリオを書くこともあり、必要であれば何でもします(笑)
宮部さん:普段はテクニカルディレクターとして、全体のディレクションとプログラミングを行っています。
昨年は当社の30周年を記念して、自社タイトル「WILD GUNS Reloaded」をリメイクすることになり、開発ディレクション以外にも、海外交渉やホームページ制作まで、あらゆる仕事を担当しました。今年はゲームショウの視察で8年ぶりの海外出張にも出かけています。
―22年ぶりに「WILD GUNS Reloaded」をリメイクしていかがでしたか?
宮部さん:とにかく大変でしたね(笑)
当時のデータはあっても表示ができないし、チームもデザイナーとプログラマとサウンドの最少構成。しかも、通常の開発を走らせながらのプロジェクトだったので、時間との戦いでした。
―当時のチームを再結成したことについて、印象に残っていることはありますか?
宮部さん:実は、「WILD GUNS Reloaded」を一緒に手がけたデザイナーの谷口とは、ずっと隣の席なんですよ。よく考えたら、母親や嫁さん以上に過ごした時間が長くて、会話の量も多いわけです。だから22年ぶりにチームを再結成したというよりは、ファミコンやスーパーファミコン向けのゲームを作っていた頃の延長のような感じだったかもしれません。
22年前に自社タイトルを手がけて以来、「アクションゲームを作るならこうだ!」というアイデアが頭の中にいくつも貯まっていました。それを表現できる機会を得られたことは、素直にうれしかったです。
鈴木さん:これまでファンのみなさんから熱いリクエストをいただいていましたが、そのお声にようやくお応えできて本当によかったです。それも当時のメンバーが全員在籍しているからこそ、実現できたことではないかと感じています。
宮部さん:また自社タイトルを出す機会が訪れたときは、今の若いメンバーが担当することになるはずです。リメイク版のリリースは確かに大変ではありましたが、1つのタイトルを世の中に送り出すまでの全体像を、私自身を通して見せてあげたいとも思っていました。
そういう意味で今回のリメイクにはさまざまな想いがありましたが、いつか彼らが自分たちの手で自社タイトルを手がけるときに役立ててくれたらと思います。
―社員の方が長く働けるよう、何か工夫していることはありますか?
鈴木さん:社員同士の仲を深めるために特別な努力をしているわけではなく、フラットな関係性が働きやすさにつながっていると思います。役職などはありますが、上司と部下というよりも、先輩と後輩のような感じでしょうか。私自身も会社や組織といった形式的な雰囲気があまり得意ではないので、フラットな関係でいられるチームを意図的に作ってきたつもりです。
宮部さん:オフもすごく仲が良いんですよ。休日にみんなで映画を見に出かけたり、わざわざ他県に焼き肉を食べに行ったり、社員同士で引越しの手伝いをすることもあるほど。昔から変わらず、部活のようなノリが名古屋事業所にはあると思います。
鈴木さん:技術的な面では、名古屋でコンシューマーゲームの開発をしている企業はとても少なく、さらにアクションゲームとなるとほとんどありません。コンシューマーゲームでハイエンドをやりたくても、うち以外ではなかなかできません。仮に他の地域でも、大手企業になると個人の自由度はあまり期待できないでしょうから、やりたことがある人にとってはちょうど良い会社なのかもしません。
宮部さん:会社に長くいると、開発者としてずっと現場に残っていられることはあまり多くないと思うんです。私たちの場合は現場で仕事ができるし、「WILD GUNS Reloaded」のリメイクができたのもそのおかげだと思っています。
―他に何か工夫していることはありますか?
鈴木さん:採用のときに、今いるメンバーと似たタイプの人を採用するようにしています。同じにおいがするというか、不思議と「ピンっ」とくるものがあるんですよ(笑)
言葉で表現するのは少し難しいのですが、絵やプログラムの中に「中途半端で終わらせたくない」、「こんな風に描きたい」というこだわりや意思が垣間見える人です。
ポートフォリオからそういったものを感じる人のほとんどは自信と意欲にあふれていて、実際にお会いしてみると「思ったとおり!」となることが多いですね。
宮部さん:「ピンっ」とくる感覚は、私にも分かります。前回の採用でも膨大な量の履歴書とポートフォリオに目を通しましたが、2人とも同じ人を選びましたから。
鈴木さん:採用時点では技術的にアマチュアレベルだったとしても、みんな着実に力を伸ばしてくれています。特に直近の5~6年は若手の成長が著しく、十分な手ごたえを感じています。
―新人の育成はどのようにされているのでしょうか?
鈴木さん:ポジションにかかわらず、まずは3~5年かけてきっちり育てる気持ちで受け入れています。学校などで技術や知識をひと通り学んでいても、ここでの仕事や考え方は入社後に身につけることが必要です。3~5年の間に得意・不得意分野を見極め、得意な部分を伸ばしていくのが基本的な育成方針ですね。
宮部さん:プログラマの場合は、最初の1年は先輩が付きっきりの状態です。できる仕事が増えてきた頃に「これをやりたい」などの提案があれば、できるだけチャレンジさせるようにしています。
鈴木さん:デザイナーは、「まずはやってみよう」のスタイルです。最初は順を追って説明しながら一緒にやりますが、その後は世界観に合わせて自分の判断でデザインや構成を考えてもらうよう任せています。新人であっても「自分が担当した」といえる仕事を手がけることになります。
企画は、担当案件の原作を知るところからスタートします。「大好き」といえるレベルまで見たあと、監修で戻ってきたシナリオの修正を行うのが最初の仕事です。
普段の開発で必要な「考えること」を早い段階でクセづけさせ、全体的な流れが見えるようになったところで企画を作るフェーズに進むようにしています。
―なぜ、最初に考えることをクセづけさせるのですか?
鈴木さん:考えることは、どのポジションにも不可欠です。例えば、モデルは処理時間を意識して作るなど、あるべき姿を最初に教えておきます。考えるクセがついていると、それを実現するために「もっとこうしたほうが良くなるのでは?」という意思が生まれ、プログラマとデザイナーが協力して工夫しながら画面を作ることも可能になります。
考えなければいけない部分に集中するために、設計図のあるモデルなどはできるだけ外部の方にお願いしています。言い換えると社内では考える仕事が大半のため、全員が考えられる人でないとプロジェクトが進みません。
宮部さん:考えずにできる仕事であれば、わざわざ自社でやるのはもったいないですよね。せっかく社内で開発するなら、自分の意思で作りたいモノを作っていくことに意味があると思います。
―若手の方からは、どのような提案があるのでしょうか?
宮部さん:最近の例を挙げると、プログラマの「エフェクトの素材を自分で作りたい」という提案です。本人の中で表現したいイメージがあったようなので、意欲を買ってやらせてみました。
実はOKを出した理由は、失敗しても良い勉強になると思ったからなんです。私自身も他のタイトルで素材を作った経験があるので、もしやってみてダメだったらカバーしてあげれば良いと考えていました。
ところが蓋を開けてみたら、想像以上の仕上がりで…。満場一致で「これを使おう!」となりました(笑)
鈴木さん:メンバーが自ら「これをやりたい」と提案するのは、宮部の仕事やゲームを作る姿勢をずっと見ているからだと思います。実際にチャレンジできる環境もありますしね。
彼らの提案や仕事ぶりを目にして、成長を実感できるのはうれしいことです。今以上に面白い仕事を任せていきたいと考えています。
―今後の展開や目標について教えてください
鈴木さん:厳しい競争の中でも、売れるタイトルを出し続けることが一番のミッションです。この業界で生き残り、今後もブレることなくコンシューマーゲームを手がけていくために、絶えず成長を続けたいと思っています。
そして将来的には、またオリジナルタイトルを出すことも目標のひとつです。若いメンバーが自社タイトルのハイエンドゲームを手がけられるよう、その土壌を私たちが作っていきたいですね。
―最後に、読者の方へメッセージをお願いします
鈴木さん:自身の手がけたモノが世の中から評価されることは、何ものにも代えがたい経験です。時間的な制約、クオリティの追求など超えるべき壁が山ほどあっても、タイトルがリリースされるとすべての苦労は一瞬で吹き飛んでしまいます。ネットや雑誌の評価に一喜一憂することも、一度味わうとついクセになってしまう面白さですよ。
宮部さん:例えば、友達から開発にかかわった箇所について質問されたときに、「ここは自分がやった」と答えられないプログラマが世の中には多いと思うんです。うちの場合は「ここは俺が考えて、こうしたんだ」とハッキリ言えるくらい、担当が明確。逆にいうと、そういう仕事しかありません。
世の中の評価も自分に返ってくるので、楽しさと同じ分だけ厳しさもありますが、それは必ず自身の糧となるものです。いつか一緒に仕事ができる機会があれば、この面白さをぜひ味わってほしいと思います。
名古屋事業所の雰囲気を「部活のノリ」と例えられていましたが、お2人のお話からもその様子が伝わってくる取材でした。また、後輩の方々をとても大切に思われていることが会話の端々からうかがえ、長く勤める方が多い理由が理解できたように思います。
自社タイトル「WILD GUNS Reloaded」のリメイクが実現できたのも、開発者が長く働ける環境があったからこそ。名古屋事業所に根付くこのすばらしい風土が、これからも変わらずあり続けることを願っています。
ナツメアタリの皆様、ありがとうございました!
取材・文: samusillee
ディレクターやクライアントとの…