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40代アーティストが考える令和のゲーム開発者の生き方
第二回 キャリアに関わる要素

40代アーティストが考える令和のゲーム開発者の生き方 第2回

第一回「ゲーム業界の現状を振り返る」はこちら

前回の記事では、ゲーム業界の現状を振り返ってみた。
今回は「開発者として生きていく上で考えることになる要素」について考えてみたい。

ゲーム開発者の働く動機

働く動機は人それぞれで「人」「技術」「挑戦」「実績」「待遇」と様々だろう。
それらをひっくるめて「環境」と言ってしまえるかも知れない。
つまりこれらの要素が、働く上で魅力的に映る環境(会社・チーム・タイトル)に身を置きたい・経験したいという欲求に繋がる。
つまり以下のような感じだ。

  • 尊敬できる「人」や良好な「人間関係」の中で働き
  • 求めている「技術」を磨き、それを活用して
  • 何かに「挑戦・経験」したり成し遂げたという「実績」を積んでいき
  • 求めている「待遇」を得ていく

実際に何を動機とするかは人によるだけでなく、年齢やその時々の心境によって変わってくる。例えば最初は「予算が大きい大型タイトルで新しい表現や高い品質を追求したい」と思っていたが、大きいタイトルを経験後には「小回りの利く小規模タイトルでゲームの内容や制作手法について積極的に提案・実践し、良いゲーム・開発を実現したい」と心境が変わることもあるだろう。それぞれにやりがいや得られる要素は違うだろうし、本人が求める環境・適した環境と実際の環境が乖離していれば実力が満足に発揮されなかったりもする。

そして、今の職場に対して理想とのギャップを感じている場合には「今の状況でよしとする」のか、もしくは「より良い環境になるよう模索をしていく」または「より良い環境を求めて移籍する」といった選択が考えられる。

若いほど隣の芝生は青く見え、経験を経ると「そんなうまい話は無いだろう」と疑うようになるが、それでも人それぞれの肌に合った環境というのは存在するように思う。それを見つけるのも容易ではなく転職には当然リスクが伴うが、自身の持つ「スキル」「実績」「目指す環境」が明確であるほど、求める職場も探しやすいのではないか。これらを普段から意識して業務に臨み、スキルを磨くことが将来身を置く環境を自ら選びやすくすると筆者は信じている。

ここから、もう少し掘り下げて書いてみたい。

動機に直結する要素

動機に直結する要素

動機のステップ

筆者は動機には「ステップ(段階)」があると考えている。例えば、最初は「技術や経験を得たい」と思い、その後は「それを活用したい」と思うといった具合だ。そのためにリーダーになりたい人もいるだろう。つまり自身の考えをゲームの内容や開発手法に反映できる立場を目指すとも言える。自身の考えを実践して経験を蓄積すれば、それを説得材料にさらに自身の考えを進めていける。

また別の観点で言えば、最初は自身を高めるところから始まり、企画やプログラムといったチーム内で良い環境になるよう尽力したり、さらにはプロジェクト全体が円滑に回るよう尽力していく‥といったように、影響範囲を拡大していくステップもあるかと思う。

  • 技術を得たい ⇒ 技術を活用したい(そして何かを成したい)
  • 尊敬する人と働きたい ⇒ (何かを成して)尊敬される人になりたい
  • 好待遇を得たい ⇒ 待遇を良くしてあげたい

「学び」を「活用」して何かを成し「実績」を得る。そうしたサイクルをいくつも繰り返して自身を磨きつつ、高みを目指していく訳だ。

技術

「技術」は「何かを成すために手段として磨く」のが自然だ。もちろん純粋に興味から追求するのも良い。どんなことでも抜きん出ていれば武器になるし、一目置かれれば意見が通りやすくなる。ただキャリアプランの側面としては、何かの技術を追求した先に「その技術によって何を成したいのか?」を考えたい。

例えばアーティスト職であれば、2Dアート・スカルプトモデリング・ポリゴンモデリング・プロシージャルアセット作成・シェーダー・リギングやアニメーション・ライティングと分野も幅広い。これらは開発環境の進歩によって必要な知識は増えたり変わったりしていき、また広くカバーするか何かに特化するかという観点もある一方で、美術・デザイン・映像の原則やPBRのような知識は普遍的に役に立つ類のものになる。

時間は有限なので、磨きたいスキルや知識が「無いものねだり」なのか「目指していることを実現するために習得が必要なもの」なのかを考える必要がある。

給与

筆者の場合、若い頃ほど金銭には無頓着だったが、家庭を持つと途端に待遇を意識せざるを得なくなり、40歳を超えて老後のためにどう貯蓄していくかを悩むようになった。クリエイター職では同じように金銭に無頓着な人は多いのではないかと想像するが…。しかし給与は「会社から受けている評価」として分かりやすい指標だという側面があるため、給与が低いことはそのまま不満に繋がる。
そんな金銭面での戦略に関して筆者は疎いため言えることは限られるが、給与を上げるには以下の要素が必要だろう。

  1. 上司に得難い貴重な人材と評価されること
  2. 明確で具体的な活躍の材料があること(抽象的な内容ではなく)
  3. 大きな活躍を期待されていること

1については「辞められると困る人材だと思わせる」とも言い替えられる。つまり容易には替えが効かず組織への影響力が大きいほど良い。上司次第だが、ここは作業の品質・速度・柔軟性、知識やヒューマンスキルなどあらゆる能力が評価対象になり得るだろう。

2についてだが、上司には直接スタッフの給与を決める権限は無かったりするので、さらに上が納得する明確な評価の材料が必要だということになる。例えば「そのゲームの肝となる表現がそのスタッフ無しでは実現できなかった」「タスクフォースを取り仕切って問題を解決していった」といったようなものだ。1とは違って能力そのものよりも実績が材料になりやすいだろう。特にチームの中で大きな問題を解決できる場合(特に多くのスタッフとの折衝が必要な類のもの)に評価に繋がりやすい。

3は案外、意識していない人も多いのでは。給与は「頑張ったから上がる」「スキルが高いから上がる」といったような単純なものではなく「支払う側により期待される働きに対して支払われる報酬が決まる」のが原則になる。つまり組織から「期待される働き」が大きくならないと給与は上がらない。例えば高いスキルを持っているのに経歴が浅くて給与が低い場合に「足元を見られている」と受け取ってしまいがちだが「(経験が浅いから)いきなり高い成果を上げることは期待されていない」と言える。これは実績を積み上げて納得させるしかない。

以上3点は転職時にも同様のことが言える。しかし応募先の採用担当者に働きぶりを直接見せることができないため、ポートフォリオ・職務経歴書・面接での説明で分かりやすく提示する必要があるが、元同僚が応募先に勤めている場合にヒアリングがなされることもあるため、普段から周りのスタッフに良い印象を持たれているということは大事だ。

開発現場の高齢化で何が変わるのか?

前回、開発現場に20代~50代のスタッフが働く時代に突入したと書いた。
そうすると一体どのような変化があるのかを考えてみた。

開発現場に20代~50代のスタッフが働く時代

若手が活躍する機会の減少

コンソールゲーム開発の現場では40代がリーダーとして要職で活躍している。これは同年代者として喜ばしい反面、若い人がリーダーを経験することが難しくなってきている。小~中規模の開発やモバイルゲーム開発の現場では若い年齢層が活躍していると思うが、それも10年後には同じ道を歩んでいるかも知れない。そして10年はあっという間だ。

組織としては若手が中核を担うことができる小さなプロジェクトが用意されると良いだろうが、それが叶わない場合は10~20年かけてリーダーに育てていく方針を立てるのも良いかも知れない。またスクリプトやマテリアルといったテクニカル寄りなスキルも「すぐにモノにしなければ!」と気負い過ぎず10年といった長期スパンで培っていくのも良いように思う。

それからリーダーになった時には、今後は年配のスタッフに指示を出したり、彼/彼女らが活躍できるようフォローしていかないといけなくもなるケースも増えていくだろう。

年配層の動機の低迷

1つの企業で20年レベルで働くと、職がある安心感と日々の業務がルーチン化することにより明確な目的を保持し続けるのは困難になり、新しい技術やツールの習得への興味が薄らいでいく人も増えるのではないか。
それはある意味自然なことでもあるため、プロジェクトごとに何か新しいパートを担当させてもらうよう掛け合ったり、何か達成したい目標を自らに課すよう心掛けたいところだ。

年配層の健康状態

30歳を超えても歳を取った実感は無かったが、40歳を越えると急に身体に衰えを感じるようになった。筆者の周りでも「老眼」「四十肩」「ヘルニア」を始め、健康上の悩みを抱える人が増えている。これらは日々注意すれば大丈夫という類の話では無いが、一方で生活習慣が原因で健康診断に引っかかる人も身近に多く、コロナ禍とリモートワークがその状況に拍車をかけていきそうだ。ほとんど出歩かない状況が何年も続いた先の健康への影響を考えると恐ろしい。

また、何か病気を患ってでもいない限り普段から健康を心がけるのは難しいが、少なくとも「健全な精神状態で開発に臨むには肉体的・精神的に余裕が必要」というのが筆者の持論だ。余裕が無ければ開発中に他人にまで気を配ることはできないので、それは意識しておきたい。

出戻りのケースの増加

ゲーム業界は流動性が高いため、辞めた人が戻ってくるケースも増えていくだろう。
そういう意味では、辞めたり戻ったりが行いやすい空気に変わっていくと良いように思う。

例えば若い人ほど他の職場も経験したくなるのは自然なことでもある。他の職場を経験して初めて今の職場が恵まれていると気付くこともあるだろう。人が辞めていくのは止められないし、無理に引き留めても意欲が削がれた状態になるならお互いにマイナスだ。

ならば、移籍を考える人の相談に乗ってあげつつ「やっぱり前の職場が一番良かった‥戻りたい」と思ってもらえる良い職場環境を目指したい。他の職場を経験して戻ってきた人はその会社を辞めずにいた場合より知見が広がっている可能性もある。リーダーにならないとリーダーの視点・苦労が分からないのと同様だ。

逆に職場を離れる側としては、良い印象で離れるよう意識した方が良いだろう。前もって上司には相談し、区切りの良いタイミングで引き継ぎ可能な状態にしてから離れるという具合に。

多様な働き方

多様な働き方

「ライフ・ワーク・バランス」という言葉が使われ出してから10年ほどになるだろうか。
筆者が書きたいことを端的に表すとこの言葉になるが、要するに「仕事とプライベート双方が充実した好循環な状態を目指そう」という考えだ。

我々はモノを創る業界に身を置いているが、ゲーム開発者は技術者としての側面も強いため「プライべートも自己研鑽に励むべき」という考えがある。その考えに対して筆者は、人生の中で大事な目標を達成していくために業務以外の時間でも必要な事があるならやるべきだろうし、それが全ての人に当てはまるとは思わない。人生を充実させていく中で仕事を最低限淡々とこなすだけに留まるのも1つの選択だ。

とは言え、目標が曖昧なら若いうちに沢山努力してスキルを磨いておいた方が、後の選択肢・可能性は広がっていくというのは勿論あるだろう。「働く動機」も「人生の目標」も「境遇」も人それぞれで、前回の記事の最後に書いたように親の介護や自身の病気等が理由でフルタイムで働けない人も今後増えていくと予想しているが、そんな境遇になっても十分生きていけるくらいには自らを磨いておきたいと考えている。例えば今リモートワークに興味が無い人であっても、上記のような境遇に直面した際には随分と見方が変わるのではないだろうか。

一方、今後は「人それぞれの境遇に対応できる多様な働き方が可能な環境」が重要で、それは人それぞれの働きに「見合った」報酬が得られることで十分に成り立つのではないかと考えている。

こういった記事を書いているのも、読まれた方の意識を向ける先が広がったり、何か新しい考えや視点が生まれたり、それらをきっかけにして現場が少しずつでも良くなっていけばと筆者が希望を抱いているからになる。
「評価や待遇、多様な働き方の受け入れなどを考えるのは上層部だから我々には関係ない」と思うだろうか?
しかし今要職に就いている人達が退陣した時にその要職に就いていくのは今20~30代の人ではないだろうか?
トップダウンでしか変えられないようなことは沢山あるが、今我々の意識が変わっていくのは長期的に見て大きな意味があるのではないか?

長期スパンと短期スパンの目標設定

さて、長々と色々な要素に触れたが、まとめると「人それぞれ働く動機が違う」ものの、「何を達成したいのか」や「そのために何をすれば良いのか」を「開発者として長い年月働くこと」や「色んな世代が一緒に働くこと」を想定して考えていこう‥という事になる。

本稿の最後には具体的にどういった目標を立てていけば良いのか、例を示してみたい。
下の表は年代別の長期スパンでのマネジメント寄りの目標の例になる。かなり抽象的に書いているが、実際にはこちらを具体的な内容に置き換えて考えてみて欲しい。

年代別の目標設定

もし目指す企業があるなら、その会社で何を成し遂げたいか具体的に考えた上で「〇〇歳までに入社する」という目標を立てると良いだろう。すると逆算してどんなスキルの習得がいつまでに必要かを真剣に考えることができる。ちなみに応募して落ちても二度と受けてはいけない訳ではないため、その後に一回り成長できたならまた挑戦すれば良い。

こうして長期スパンで目標を立てつつ、さらに毎年や2~3年のような短期スパンでの目標を平行して立てていくと良い。例えば開発で使用するツール・プラグイン・ミドルウェアなんかは時代によって変わっていくのでその都度習得が必要になるが、そういったツール類を「学習して実務で使ってみて、使い方やTIPSをドキュメントにまとめる」といったことも短期スパンの目標に向いている。ツールやスクリプトは「何となく自己研鑽のために覚えておく」のではなく「具体的な実務の中で利便性を確かめるために試す」ことで、動機も強まり知識も定着しやすく実績にもなりやすい。例え結果的に「使えない」ことが分かったとしても、それは1つの立派な知見になる。

そうして、大小の目標を達成していけるよう意識しながら日々の業務に取り掛かっていくことで、時間を有意義に使いながら人生を意義のあるものにしていく感じだ。

とは言え60代になった時に現場でどういった活躍ができるのかは筆者にもまだ想像が及ばない。だが、興味が尽きず努力できる限りは活躍できると信じているし、少なくともゲーム業界全体への貢献として何かしら生きていた証を世に残したいと考えている。
世の中に残せるものはリリースしたゲームのみならず、自身の後継であったり、組織に根付かせた文化であったり、講演等によるナレッジの浸透であったりと様々なものが考えられる。

さて、かなり長くなってしまったが第二回は以上になる。
次回は最後に「アーティストとしての汎用スキル」について触れたいと思う。

ポコ太郎

ライター:ポコ太郎

2D&3DCGアーティストとしてディベロッパーとパブリッシャーを数社経験、ゲーム業界歴は20年を超える40代中盤。
親の介護の話が浮上してきており、身体にガタも来始めている。
今後20年をどう働いていくか・どんな形で業界貢献ができるかを考え中。

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